栄養と体重管理|65kg→60kgを科学する、除脂肪体重を守りながらFTPを上げる方法


体重を落とせばW/kgが上がる——それは正しい。だが間違った落とし方をすれば、FTPも一緒に落ちる。65kgから60kgへ、5kgの減量を「出力を守りながら」どう実現するか。データと方針を公開する。

01 / PREMISE 大前提|何kgの脂肪があって、何kgまで落とせるか

まず現実の把握から始める。「5kg痩せる」と言うとき、その5kgが脂肪なのか筋肉なのかで話がまったく変わる。

現在の筆者のデータ(65kg)を前提に試算する。体脂肪率を仮に16%とすると——

項目 現在 目標(60kg)
体重 65 kg 60 kg
体脂肪率(推定) 約16% 約10〜11%
体脂肪量 約10.4 kg 約6.0〜6.6 kg
除脂肪体重(LBM) 約54.6 kg 54.6 kg(維持)

目標は除脂肪体重(LBM)を54.6kgに維持したまま、体脂肪だけを約4〜5kg削ることだ。筋肉量が落ちればFTPも落ちる。体重が5kg減っても出力が10%下がれば、W/kgはほぼ変わらないか、むしろ悪化する。

体脂肪率10〜11%はエリートヒルクライマーとして現実的な下限値に近い。これ以上落とすと免疫機能や回復力の低下、ホルモンバランスの乱れを招くリスクがある。60kgが目標で、それ以下は目指さない。

02 / RATE 減量ペースの設計|週0.25〜0.5kgが上限の理由

トレーニング計画の記事でも触れた通り、週あたりの減量ペースは0.25〜0.5kg以内を上限とする。これ以上速いペースで落とすと、筋タンパクの分解が進みFTPの低下を招く。

エネルギー換算すると、脂肪1kgは約7,200kcalに相当する。週0.5kgの減量には週あたり約3,600kcalの赤字が必要で、1日あたり約500kcalのマイナスになる。これは食事だけで作るのではなく、トレーニングによる消費増加と食事制限の組み合わせで管理する。

フェーズ 目標体重 週あたりペース 方針
P0(今〜8月) 64〜65 kg 維持 本番走に集中、絞らない
P1(10〜12月) 64 kg 〜0.1 kg/週 筋力構築期、わずかな赤字のみ
P2(1〜2月) 63 kg 〜0.25 kg/週 VO2導入期、緩やかに絞る
P3〜4(3〜6月) 61〜62 kg 〜0.3 kg/週 ビルド期、赤字は最小限
P5〜本番(7〜8月) 60 kg 〜0.25 kg/週 最終仕上げ、クラッシュ禁止

重要なのはVO2・閾値ブロック中は絞らないことだ。高強度トレーニング中にカロリー制限をかけると、超回復に必要なエネルギーが不足し、適応が阻害される。強度の高い週は「維持」か「微増」を基本とし、強度の低い週に絞る。

03 / PROTEIN タンパク質が最優先である理由

減量中に最も守らなければならない栄養素がタンパク質だ。摂取量が足りなければ、身体はエネルギー不足を補うために筋肉を分解し始める。これがFTP低下の主因になる。

筆者の目標摂取量は体重1kgあたり1.8〜2.2gだ。現在の65kgでは1日あたり117〜143gが目安になる。

食品 タンパク質
鶏むね肉 200g 約47g
3個 約18g
ギリシャヨーグルト(無糖) 200g 約20g
木綿豆腐 300g 約20g
ホエイプロテイン 1スクープ(30g) 約24g
合計 約129g

上記の組み合わせで1日の目標下限(約117g)を十分カバーできる。特に運動後30〜60分以内のタンパク質摂取(20〜40g)は筋タンパク合成を最大化するために重要だ。高強度セッション後はプロテインシェイクと鶏むね肉の組み合わせが最も手軽に対応できる。

04 / CARBOHYDRATES 糖質の扱い方|削る場所と守る場所

「炭水化物を減らせば痩せる」は半分正しく、半分間違いだ。高強度トレーニングの燃料は糖質だ。インターバル中やVO2maxセッションで脂肪は使えない。糖質が不足した状態で高強度セッションに臨むと、出力が出ず、練習の質が下がり、回復も遅れる。

削っていい場所・守るべき場所

タイミング 糖質の方針 理由
高強度セッション前 しっかり摂る グリコーゲン確保。出力が出ないと練習の意味がない
高強度セッション後 しっかり摂る グリコーゲン再補充。回復速度に直結
Zone 2(低強度)前後 控えめでよい 低強度では脂肪代謝が主体。脂肪燃焼を促進する「train low」戦略
休養日・夜 最も削る 消費が少ない時間帯の糖質は脂肪として蓄積されやすい

この考え方を「カーボペリオダイゼーション(周期的糖質調整)」と呼ぶ。トレーニング強度に合わせて糖質を増減させることで、除脂肪を進めながらトレーニング品質を維持できる。

05 / RACE NUTRITION レース当日の補給戦略

乗鞍は約53〜65分のレースだ。この時間帯は補給なしでも完走できるが、グリコーゲンを切らさないことでペースを後半まで維持できる。

レース当日のタイムライン

3〜4時間前(朝食)

白米1.5〜2杯・卵・味噌汁。消化に時間がかかる食物繊維・脂質は最小限に。

1時間前

バナナ1〜2本またはエネルギージェル1本。胃に優しく素早く吸収される糖質でトップアップ。

スタート直前(5〜10分前)

ジェル1本(40〜60g糖質)を摂取。直前摂取でインスリンスパイクが起きにくいタイミングを狙う。カフェイン入りであれば集中力の底上げにも有効。

レース中(20〜30分前後)

ジェルを1本追加。目標が53〜60分であれば合計2本(約80〜120g糖質)が基本形。水分はボトル1本(500ml)で十分。

重要:腸のトレーニングを忘れない

レース当日に初めて試すジェルは危険だ。腸が高強度時の消化に慣れていないと、胃腸障害を起こして失速する。トレーニング計画の記事で触れた通り、60〜90g/時の糖質摂取を練習から日常的に実施して腸を馴らしておく。キーセッション(特に土曜の登坂閾値)は本番同様の補給でこなすことを推奨する。

06 / MONITORING 体重管理のモニタリング方法

体重は1日の中で1〜2kg変動する。食後・トレーニング後・就寝前などの測定は意味をなさない。条件を固定して毎朝起床直後・排尿後・空腹の状態で測定することで初めてトレンドが見えてくる。

見るべき指標は「7日移動平均」

1日の体重ではなく、7日間の移動平均値で管理する。日々の変動(水分・食事内容・グリコーゲン量)を平滑化することで、本当に脂肪が落ちているかどうかが見えてくる。intervals.icuの体重グラフ機能をWithings連携で使うと、このトレンドラインが自動的に表示される。

指標 ツール 頻度
体重(7日移動平均) Withings → intervals.icu 毎朝
体脂肪率 Withings スマート体重計 毎朝(参考値)
FTP(出力維持の確認) パワーメーター + intervals.icu 月1回
HRV(回復・疲労の指標) 胸部ストラップ 毎朝

体脂肪率は家庭用体重計での計測は誤差が大きく、絶対値ではなくトレンドとして参照する。より正確に把握したい場合は、DXA(二重エネルギーX線吸収法)スキャンを半年に1回受けることで、除脂肪体重の変化を精度高く追うことができる。

FTPと体重を並べて毎月確認することが最も重要だ。体重が1kg落ちてもFTPが5W落ちていれば、W/kgは改善していない。この「同時モニタリング」がなければ減量が正しく機能しているかどうか判断できない。

07 / PHASE PLAN フェーズ別の栄養方針まとめ

トレーニング計画の7フェーズに対応した栄養方針を1枚で整理する。

フェーズ カロリー 糖質 タンパク質 特記
P0 測定 維持 普通 1.8g/kg 本番に向けてカーボロードを実施
P1 筋力ベース 微赤字 高強度日のみ多め 2.0〜2.2g/kg デッドリフト2回/週。タンパク質を最優先に確保
P2 FTP構築 小赤字 周期的調整 2.0g/kg VO2導入期。高強度前後は糖質を守る
P3〜4 ビルド 小赤字 周期的調整 2.0g/kg 登坂閾値前後の補給を本番同様に実施
P5 ピーク 小赤字 高め維持 2.0g/kg 暑熱トレ中は水分・電解質に特別注意
テーパー+本番 維持〜増 カーボロード 1.8g/kg テーパー3日前からグリコーゲン満タンへ

栄養戦略の3原則

LBMを守る。タンパク質1.8〜2.2g/kg、特に高強度後30〜60分以内の摂取を厳守する。

強度が高い週は絞らない。カーボペリオダイゼーションで「削る日」と「補充する日」を明確に分ける。

FTPと体重を同時に追う。体重が落ちてもFTPが下がれば失敗。毎月の計測でW/kgの実数値を確認する。

毎週の食事記録とW/kgの推移はトレーニングログ記事の中で公開していく。数字が計画通りに動いているか、動いていないとすればどこに原因があるかを、データで追いかけ続けることがこのブログのスタンスだ。

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